TRON

image/Prototaxites

●TRON(トロン)とは

「TRON」、「THRON」、「TRON MEGAN」(トロン メガン)と呼ばれる物質はヴードゥーにまつわる特殊な *Fetish です。

主にベナンに住むフォンの呪術師が扱う黒い物質がTRONと呼ばれています。

極めてローカル&カルトな存在のTRONは強力な力を持つとされ、村の住居や住民を守るために用いられます。ですが、基本は休眠状態らしく特定の祠や聖域、「ゾグベ」(Zogbe)と呼ばれる祭壇に安置されています。

雄羊の角を備えたり、動物の頭骨を露出させたりと様々な形態が存在している
、いまだ未解明のパワーアイテムです。

*Fetish=フェティッシュ
「Fetish」は日本語では「呪物」「お守り」「祭具」とも訳せますが、民俗学的文脈を含めて「Fetish」表記としています。



●マテリアル

表面は厚い皮膜に覆われ、ひび割れたような外観を持ちます。この黒くて乾いた光沢のあるテクスチャは霊への捧げものとなる動物(鶏、猫、犬、雄羊など)の犠牲の数を示しているとされます。

その黒い皮膜が厚くなると、鉄の鎖、小さな縄、あるいはカウリー貝といった素材を組み合わせて形態の変形・変身が行われるようです。

内部マテリアルは秘密にされていますが、秘密の場所で採取された希少な薬草が隠されているとされます。「薬草は乾燥して粉末状に砕かれ土と混ぜ合わされるらしい」とこっそり漏れ伝わっています。

加工素材の中には、鶏・猫・犬といった動物たちの小さな骨(多くは砕かれたもの)が混ぜ込まれることもあります。その中でも特に犬は重要な構成素材であるとされます。

一方、なぜか豚は一切含まれず、皮も肉も骨も使用されません。

自然のマテリアル以外にも保護の意志を示すものとして、金属片が加えられることもあり、刃先が突き出たナイフなどが用いられるタイプも存在します。

また、呪術師が力を宿す器として使用される点において、バマナの「ボリ」(Boli)と共通する点もあり興味深いです。

その力はとても大きく、所有者・使用者に守護や癒やしをもたらすとされます。



●発生

ベナン南部の「クーヴァン」(Couvents)と呼ばれるヴードゥーの祭祀施設は住居や屋外空間を含む閉鎖区域であり、その中で儀礼の担い手たちがTRONを実践しています。

TRONは治療的・治癒的性格を持つ信仰であり、20世紀初頭にガーナからトーゴを経由して伝わったとされます。

その起源はハウサ系にあり、この土着のアニミズム信仰はイスラム教徒によって広く受け入れられたと考えられています。

ベナンで知られている他のヴードゥー信仰とも結びついていますが、呪術や魔術的実践とはどうやら区別されているようで、ローカルに分岐したものと言えそうです。

▲TRONを身に着けて村を練り歩く呪術師

●安置と活性化

TRONとは、その生成に用いられる石灰岩に由来して、「石」のような形態・対象そのものを指しているとされます。

また、他のヴードゥーで使用されるコーラの実とも関係していて、イスラム教徒の間でも力と豊穣の象徴として扱われるとされます。

TRONは完成するとゾグベの祭壇に集められます。完成したばかりの本来の形態は、丸くて平べったい石のような姿をしています。一説によると、その本来の形態(状態)を「バングレ」(Bangle)、あるいは「中心の祭具」(pièce maîtresse)と呼ぶこともあるようです。

その後、発生した問題(健康・病気・災厄・霊的問題、人間関係、夫婦生活など)に応じて、「患者」(実践共同体の一員)を癒すためにゾグベから取り出され、用途に合わせたTRONへと仕上げていくとされます。

ヴードゥーの呪術師(司祭・呪術医・占い師)「ボコノ」(Bokono)により変形・変化を加えられることで活性化して個人的な問題解決のための「NEW TRON」となります。

TRONはその形態と用途に応じて主に以下のようなタイプが存在します。

「Bangle」(バングレ):ゾグベに安置されるもの
「Sacla」(サクラ): 鎖を伴うもの
「Okossou」(オコソウ):角を備えたもの
「Bahoungle」(バフングレ):ナイフを備えたもの
+その他
呪術師が身に着けるもの...etc

TRONに追加される新たな属性は、視覚的・治療的観点において、備える力を直接的に表現するものです。

TRONはローカルなヴードゥーの力の象徴であり、治療儀礼の中心、信仰そのものの純粋な形としていまも存在するものです。

▲TRONの主な信仰地域Ouidah=ウィダー

●ン・マでのご紹介

アフリカの黒いものをゆっくりと集めてまいりました。それらの一部がTRONのようだと知り、よく分からなかった黒い物質に共通する秘密が少しだけ明らかになってきましたので、厳選したTRONをン・マでご紹介させていただきます。

鎖を伴う「Sacla」、角を備えた「Okossou」、ナイフを備えた「Bahoungle」など、収集家の間でもあまり知られていない(情報も極端に少ない)TRONの紹介は日本初となるように思います。

「力」と「治癒」の能力を秘めた黒い物質=TRONの存在感をお楽しみいただけましたら幸いです。


 

参考サイト:
ブードゥー教 - wikipedia
ベナン - wikipedia
フォン人 - wikipedia

参考文献:
THRON UN CULTE D'AFRIQUE DE L'OUEST